療育の基本知識

性教育に抵抗がある保護者へ。子どもを守るために知っておきたい大切なこと

「性教育」という言葉を聞いて、少し身構えてしまう保護者の方は少なくないでしょう。
日本では、性について話すことがタブー視される文化が長く続いてきたため、そのように感じるのは自然なことです。

しかし、現代社会では、インターネットの普及やSNSの発展により、子どもたちが性に触れる機会は以前にも増して増えています。私たち大人が思う以上に、子どもたちはさまざまな情報にさらされています。こうした状況下で、子どもが「加害者」にも「被害者」にもなり得るリスクが存在しているのです。

性教育は「守る力」を育むためのもの

性教育とは、決してタブーにするべきものではありません。それは「正しい知識」を通じて、子どもたちが自分自身や他人を尊重し、守る力を身につけるための教育です。

性教育というと、「プライベートゾーン」や体の名称を教えることに限定されると思われがちですが、実際にはもっと広い視点が必要です。例えば、以下のようなことを子どもたちに教えることが含まれます。

・自分の体や心は大切なものだということ
・「触れられて嫌だ」と感じたときには「嫌」と言っていいこと
・自分が良いと思っていても、相手が嫌だと感じる場合もあること

これらは「包括的性教育」と呼ばれるアプローチの一部です。この考え方に基づいた教育は、子どもたちが自身を守る力を育み、他者を尊重する心を養うためのものです。

性教育は「恥ずかしいもの」や「難しいもの」ではなく、日常の中で自然に取り入れることができます。

日常で性教育を教える具体例

性教育は特別な時間を設けなくても、日常生活の中で自然に取り入れることができます。以下では、家庭で実践しやすい具体例をご紹介します。

「自分の体は自分のものだよ」という基本的な認識を教える方法

具体例:お風呂の時間

  • 子どもの体を洗ってあげるときに、「ここは大事な部分だから、自分だけが触るところだよ」と伝える。
  • 洗う順番を子どもに選ばせて、「自分の体のことは自分で決められるんだ」と実感させる。

具体例:着替えの時間

  • 子どもが着替えているときに、「誰かに見られて嫌だなと思うときは、必ず教えてね」と伝える。
  • 着替えのプライバシーを守るルールを一緒に考える。「トイレや着替えのときはドアを閉めようね」など簡単なルールを作ると良い。

具体例:遊びの中での会話

  • 人形やぬいぐるみを使い、「この人形の体は誰のものかな?」と問いかける。答えを通じて、「あなたの体はあなたのもの」というメッセージを伝える。

「触られて嫌だ」と感じたときに「嫌」と伝えていいことを教える方法

具体例:ロールプレイを活用

  • 親子で「嫌と言う練習」をしてみる。親が「このおもちゃ、貸して」と言い、子どもが「嫌だ」と言う練習を通じて、自分の気持ちを言葉にすることを学ぶ。
  • 「嫌だと言った後に相手がどう思うかも一緒に考えてみようね」と話し、相手とのやり取りを体験させる。

具体例:タッチの遊び

  • ハイタッチやじゃんけんを使って、「触りたくないときは手を出さなくてもいいよ」とルールを設定。これにより、体に触れられることに関して選択肢があることを伝える。

具体例:絵本を使う

  • 「嫌だと思ったらどうする?」をテーマにした絵本を一緒に読む。例えば、主人公が嫌なことをされた場面で「この子はどうしたら良いと思う?」と問いかけ、意見を引き出す。

「自分が触れてもいい」と思っても、相手が嫌だと思うこともあることを理解させる方法

具体例:兄弟や友達との遊びの中で

  • おもちゃの取り合いや、遊びの中での接触があったとき、「○○ちゃんはこれが嫌だって言ってるみたいだね。どうすれば良いと思う?」と問いかける。
  • 子ども自身に、他人の気持ちを考える時間を与える。

具体例:ペットや人形を使った教え方

  • ペットや人形に例えて、「この子が疲れてるときにぎゅっと抱きしめたら、どう思うかな?」と話を振る。
  • 「相手の気持ちを聞くことが大事だね」と繰り返し伝える。

具体例:ハグやキスの場面で

  • 親が子どもに「ハグしてもいい?」と聞いて、子どもが「嫌だ」と言ったら、それを尊重する姿を見せる。
  • 子どもが「嫌だ」と言ったときに、「わかったよ、またしたくなったら教えてね」と受け入れる対応をすることで、相手の気持ちを尊重する態度を示す。

性教育の第一歩は保護者が意識を変えること

性教育を家庭で進めるためには、保護者自身が性教育についての意識を変えることが必要です。以下のポイントを押さえて、性教育をポジティブに捉えましょう。

性教育は「恥ずかしい話」ではない

性教育は、子どもの命を守り、健やかな成長を支えるための大切な教育です。「性教育=恥ずかしいもの」という固定観念を取り払い、「子どもを守るために必要なもの」として前向きに捉えましょう。

完璧を目指さなくていい

保護者自身が性教育について詳しい知識を持っている必要はありません。まずは子どもの疑問に対して素直に向き合い、一緒に学んでいく姿勢を見せることが大切です。

日常会話に取り入れる

性教育は特別なものではなく、日常生活の中で自然に取り入れることができます。例えば、「お風呂で体を洗うとき」「絵本を読む時間」など、子どもがリラックスしているタイミングを活用しましょう。

性教育を始めるタイミング

性教育を始めるタイミングに「早すぎる」ということはありません。幼児期には、シンプルなメッセージから始めると良いでしょう。
例えば、「プライベートゾーンは他の人に触られたくない部分だよ」と教えることで、子ども自身が自分の体に対する意識を持ち始めます。

成長に合わせて、徐々に具体的な知識を増やしていけば、自然と包括的な性教育を進めることができます。

家庭が安心感のある場になることが大切

性教育を進める上で最も重要なのは、子どもにとって家庭が「何でも話せる場」であることです。「困ったときには親に相談していいんだ」と子どもが感じられるよう、日頃から安心して話せる関係性を築いておきましょう。

性教育は、子どもを危険から守り、健やかな成長をサポートするための大切な教育です。初めて性教育に取り組む保護者の方も、少しずつ始めてみることで、お子さんと一緒に安心できる未来を築いていきましょう。

編集・監修者

合同会社Calux代表。社会福祉学修士、社会福祉士の資格を持ち、人間環境大学松山看護学部の研究員。児童発達支援・放課後等デイサービス「Camino」の管理者兼児童指導員として、障害を持つ子どもたちの未来を支援。システムエンジニアの経験を活かし、療育プログラムの開発やテクノロジーを活用した支援方法を実践。プログラミング教育や課題解決能力の育成に注力し、講演や執筆活動も展開している。

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