支援アイデア 療育の基本知識

発達障害を持つ子どもへのソーシャルスキルトレーニング(SST)の実践例

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、発達障害を持つ子どもたちが日常生活で必要な社会的スキルを学ぶための効果的な療育方法です。発達障害のある子どもは、対人関係や社会的状況で困難を抱えることが多く、これらのスキルを実践的に学ぶことが重要です。

この記事では、ソーシャルスキルトレーニングの基本的な考え方と、発達障害を持つ子どもたちに対する具体的な実践例を紹介します。


1. ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、子どもたちが他者との関わり方やコミュニケーションのスキルを学ぶための訓練です。発達障害を持つ子どもにとって、適切な社会的行動を身につけることは、友人関係の構築や学校生活をスムーズに進めるために欠かせません。SSTでは、現実の生活で直面する場面を想定し、その場でどう行動すべきかをロールプレイなどを通じて実際に体験しながら学びます。


2. SSTを発達障害を持つ子どもに取り入れる際のポイント

SSTを発達障害のある子どもに適用する際には、以下のポイントが重要です。

  • 個々のニーズに応じたプログラム作成: 子どもごとの社会的な課題に合わせたトレーニングが必要です。個々の特性や得意・不得意に合わせたアプローチをとります。
  • 実践的な場面を提供する: 子どもたちが日常的に直面する社会的なシチュエーションを取り入れ、具体的な行動を練習させます。現実の場面に近い状況を再現することが効果的です。
  • 反復学習の重要性: 子どもが学んだスキルを実際の生活で使えるように、繰り返し練習を行うことが大切です。

3. ソーシャルスキルトレーニングの具体的な実践例

ここでは、発達障害を持つ子ども向けに行われる具体的なSSTの実践例を紹介します。

a. あいさつの練習

あいさつは、社会生活の基本的なスキルであり、人間関係を築く上で最初のステップです。発達障害のある子どもは、挨拶の必要性が分からなかったり、適切なタイミングであいさつをするのが苦手なことがあるため、そのためのトレーニングが必要です。

  • 実践例: 子どもたちが学校や家庭でよく出会う状況(登校時、帰宅時、食事の前後など)を設定し、どのようにあいさつをすればよいかをロールプレイで練習します。最初は「おはよう」「こんにちは」といった簡単な言葉から始め、次第に相手の表情や声のトーン、状況に合わせてあいさつの仕方を変える練習を行います。日頃から周りの大人がお手本を見せることも重要です。

b. 友達との遊び方の練習

友達との遊び方の練習は、社会性の発達に欠かせないトレーニングの一つです。発達障害のある子どもは、友達との遊びの中で順番を守ったり、協力したりすることが難しい場合があります。

  • 実践例: 例えば、「ままごと」などのごっこ遊びを通して日常生活の模倣することでコミュニケーション能力を育んだり、「鬼ごっこ」や「ボードゲーム」など、ルールがある遊びを通じて、順番を守る、相手の意見を聞く、協力してプレイする方法やその大切さを教えます。指導者は、子どもがルールを破ったり、友達との間でトラブルが発生したときに、その場で指導を行い、次回どうすべきかを教えます。
  • または、遊び終わったあとにフィードバックを行い、落ち着いた環境で自分の行動を振り返ることで、子どもが自発的に良かった点・悪かった点に気づく機会を与えます。そうすることで、次回以降の行動に活かすきっかけにもなります。

c. 感情表現と理解の練習

感情の表現や理解が難しい子どもたちには、感情の認識と表現を練習させることが重要です。SSTでは、子どもが相手や自分の感情を適切に理解し、それをどう伝えるべきかを学びます。

  • 実践例:  感情カードや絵を使って、さまざまな感情を視覚的に教えます。例えば、怒っている表情の絵を見せ、「どんな気持ちだと思う?」と問いかけ、表情と感情のマッチングを行います。
  • 反対に、子どもが「怒っている」と感じたときに、その感情を「怒りのカード」で表現し、どう対処すべきかを一緒に考えます。こうした練習を通じて、子どもは相手や自分の感情を理解し、適切に伝えるスキルを養います。

d. 困難な場面での対処法

発達障害を持つ子どもたちは、困難な状況に直面したとき、どう行動すればよいかが分からず、パニックに陥ることがあります。SSTでは、日常で起こりうる困難な場面に対処するための方法を学びます。

  • 「誰かにからかわれた」「欲しいものを取られた」といったシチュエーションを設定し、どう対応すれば良いのかをロールプレイで練習します。子どもは、深呼吸、ストレスボールなどでの感覚刺激を与えるなど、個々に合ったリラックス法で気持ちを落ち着けたあとに、相手に冷静に言葉で伝える方法を学びます。このように、具体的なシチュエーションを設定して練習することで、実際の場面でも適切に行動できるようになります。自分で相手に伝えることが困難な場合は、大人にヘルプを出す練習を行うのも大切です。

4. SSTがもたらす効果

ソーシャルスキルトレーニングを通じて、発達障害を持つ子どもたちは、以下のような効果を得ることが期待できます。

a. 自信の向上

SSTを通じて、子どもはさまざまな社会的な場面で成功体験を得ることができ、注意をされる機会が減少します。それが自信へとつながります。相手に感謝されるなど、自分の行動が他者との良好な関係を築くのに役立つことを実感することで、自己肯定感が高まります。

b. コミュニケーション能力の向上

SSTによって、子どもは他者との適切なコミュニケーションの取り方を学びます。これにより、友達や家族との円滑な関係が築かれ、孤立することなく社会に適応する力が育まれます。

c. 問題解決能力の向上

困難な状況やトラブルが発生した際に、どう行動すれば良いかを学んでいるため、問題解決能力も向上します。子どもは周りに助けを求めたり、自分自身で問題を解決しようとする姿勢が身につき、ストレスを感じる場面でも冷静に対処できるようになります。


まとめ

発達障害を持つ子どもたちにとって、ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、社会での人間関係やコミュニケーションスキルを習得するための重要な手段です。具体的なシチュエーションを設定し、反復的に練習することで、子どもたちは日常生活に必要なスキルを身につけ、自信を持って行動できるようになります。

SSTを通じて学んだスキルは、学校や家庭での人間関係にも大きく役立ち、子どもたちがより豊かな社会生活を送るための土台を築くものです。

編集・監修者

山内 凪紗

本業で放課後デイサービスの児童発達支援管理責任者として働く傍ら、副業でライターにも挑戦中。 短大の保育学科を卒業後、『困っている子どもの力になりたい』と思い、児童養護施設に就職。5年努めたのち放課後デイサービスに転職し、児童発達支援管理責任者として現在は発達障がいの子どもたちの成長を支えています。ライター業では療育に関する知識を活かし、子育てに悩む保護者の力になる記事の執筆を心がけています。

-支援アイデア, 療育の基本知識
-, , , , , ,